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エンゼルケアの目的と意義とは?看護師・介護職が行う処置の手順を解説

  • 更新日
投稿者:小口 紗穂

死亡した後、亡くなられた方の身体を清潔にし死化粧(エンゼルメイク)などを施して美しく整えるエンゼルケア。言葉は知っていても具体的な内容については知らないことがたくさんあります。

エンゼルケアは故人の死後、いつ誰がどのようにして行ってくれるのでしょうか?また費用についても気になるところです。

この記事ではエンゼルケアをしなければいけない理由とは何か、エンゼルケアをすることでどのような意義があるのかなどについても解説いたします。

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1.エンゼルケアとは?

エンゼルケアとは、亡くなられた方の身体に死後の処置を施すことです。

人も亡くなると身体は腐敗していきます。葬儀までの間少しでも腐敗の進行を抑えることや、清潔さを保つためにエンゼルケアは行われます。また見た目を美しく整えるために死化粧を行いますが、これもエンゼルケアのひとつです。

現在エンゼルケアは「逝去時ケア」とも呼ばれています。以前は「死後処置」と呼ばれていましたが、時代とともに死後処理の意味や考え方に変化があり呼称も変わっていきました。呼称の変化の1番の理由は、死後も人としての尊厳を保つため故人や遺族などに配慮されたものと考えられます。

そのほかエンゼルケアと混同されやすいものに以下が挙げられます。それぞれの違いについて説明いたします。

エンゼルケアとエンゼルメイク(死化粧)の違い

エンゼルメイクとは、死化粧のことです。

死後、血流のとまってしまった遺体は刻一刻と変化していきます。特に皮膚の乾燥はめざましく、顔色は茶褐色へと変わり唇も薄くなります。そのため見た目は生前とはずいぶんと印象が違ってしまいます。

エンゼルメイクは肌の保湿や化粧を施して、少しでも生前の表情に近づけるために行われます。

以前行われていた死化粧は、顔に白粉をつけて紅をさしただけの簡単なものでした。現在はエンゼルメイクの他にラストメイク、フューネラルメイクとも呼ばれるようになり、メイクを行う意味も変わってきています。

このようにエンゼルメイクはメイクを中心としたご遺体のケアを行うもので、エンゼルケアの一部です。

両者の違いは以下の通りです。

  • エンゼルケアは亡くなられた方のケア全般
  • エンゼルメイクはエンゼルケアの中の一部

エンゼルケアと湯灌(ゆかん)の違い

湯灌とは、遺体をお湯につけて身体をきれいに洗うことです。浴槽に入れることもありますが、全身を拭いてマッサージすることを湯灌と呼ぶ場合もあります。

死後硬直をほぐしたり清潔を保つために行われるのが目的です。地域によっては、穢れを落とす儀式として古くから親しまれてきたという背景もあります。儀式として行われる場合には、作法があるため「おくりびと」と呼ばれる納棺師などに依頼することが多いようです。

このように湯灌には儀式的な要素があり、生前の姿に近づけるために行われるエンゼルケアとは内容に違いがあります。

両者の違いは以下の通りです。

  • 湯灌は死後硬直をほぐすことの他に儀式的な意味合いが強い
  • エンゼルケアは生前の姿に近づけるための処置

エンゼルケアとエンバーミングの違い

エンバーミングとは、遺体を殺菌や防腐処理を行って長期間保存する技法・技術のことです。エンバーミングはエンバーマーと呼ばれる専門の資格を持つ人にしか行うことができません。

日本語でエンバーミングは「遺体衛生保全」「死体防腐処理」などと訳されています。

遺体を整えて生前の姿に近い状態に戻す処置という点では、エンゼルケアと同じです。ただし遺体を消毒・殺菌し体液を排出したあと保全液の注入などを行うため、常温のまま長期間衛生的に保存することができるのです。

両者の違いは以下の通りです。

  • エンバーミングは長期間保存するための技術と専門的な知識(資格)が必要
  • エンゼルケアは資格は不要で誰でも行うことができる
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2.エンゼルケアの目的と意義

エンゼルケアの目的は2つあります。ひとつは感染症予防のためで、もうひとつは遺体を整えて尊厳を守るためです。

  • 感染症の予防のため 臨終してすぐの遺体は感染症のリスクがあるため、適切に処置する必要があります。遺族などが危険にさらされないように、専門知識や経験豊富な人に任せて処置を行ってもらうようにします。
  • 遺体を整え、尊厳を守るため 遺体を整えて生前の姿に近づけるのは、故人の尊厳を守るためでもあります。美しい姿で最期を飾ることは、その人の人生の象徴として遺された人々の記憶に刻まれます。

エンゼルケアの持つ意義は、遺された家族が死と向き合い、死を受け入れる環境を整えることができることにあります。

核家族化が進む昨今、死に対する幻想的な恐怖心は我々現代人にとって大きな課題ともいえます。やみくもに死を恐れるのではなく、死後の関わりを持つことでその意識は変わります。

エンゼルケアは遺族に対するグリーフケアとして、死の恐怖をやわらげる効果があるといえるでしょう。

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3.エンゼルケアはどこで誰が行うのか?

エンゼルケアを行うには特別な資格などは必要ありません。そのため誰でも行うことは可能です。

病院や施設で亡くなった場合は、一般的には看護師や介護職などが行います。自宅で亡くなった場合には、葬儀社のスタッフや納棺師などに依頼する場合も多いようです。また希望によって家族が自ら行うこともあります。

  • 病院の場合 病院でのエンゼルケアは病院によって方針に違いはありますが、主に看護師が行います。看護師だけで行う場合もありますし、希望によって家族とともに行ってくれる場合もあります。 病院で行っていない場合は、葬儀社のスタッフや納棺師が行うこともあるようです。
  • 介護施設の場合 看取りを行ってくれる介護施設では、介護職のスタッフがエンゼルケアを行ってくれることが多いようです。 介護施設で行っていない場合は、葬儀社のスタッフや納棺師が行うこともあります。
  • 自宅の場合 訪問看護師や医師または葬儀社のスタッフ・納棺師など、その時の状況や環境によって違います。

看護師と納棺師が行うエンゼルケアの違い

エンゼルケアは誰が行っても同じというわけではありません。それは知識や経験や考え方によって違いが生じるためです。

ここでは看護師と納棺師が行うエンゼルケアの違いについてご説明いたします。

看護師は職業柄もあって、衛生面に重点を置いてエンゼルケアを行います。口腔内の洗浄や便などの処理を行い、感染症を予防するための処置をしっかりと行います。

一方納棺師は、生前の姿に近づけることに重点を置いたエンゼルケアです。

それぞれ得意な分野からのエンゼルケアのアプローチを行います。そのため理想的なエンゼルケアの流れは、逝去後衛生面に強い看護師の死後処置を行ったあと、生前の姿に戻すための納棺師の保護処置を行うことです。

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4.エンゼルケアの費用について

エンゼルケアの費用はどこに依頼するか、場所や地域などによっても大きな差が生じます。それは例えば病院で亡くなった場合、治療費には含まれないため自由に設定することができるからです。

病院や介護施設、訪問看護などの医療関係の機関と、葬儀社で行う場合は次のようになります。

  • 病院・介護施設・訪問看護 エンゼルケアの費用は保険適用外となっており全額自費負担です。一般的な治療とは別に設定されていることから、病院ごとに大きな差があるのが現状です。 相場は1万円程度と言われていますが、無料で行ってくれる病院もあれば3万円程度かかる場合もあります。
  • 葬儀会社 葬儀会社はそれぞれ独自のサービスを行ってもいるためピンからキリまであり、3万円から10万円以上かかる場合もあります。また葬儀費用とパッケージ化されることも多いため、高額でも気になりにくい点が特徴的です。
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5.エンゼルケアの具体的な手順と流れ

エンゼルケアは故人の尊厳を守るためはもちろん、なにより遺族の気持ちに寄り添うことが大切です。

はじめてエンゼルケアを行うとき、遺体に触れるのは抵抗があるし怖いと感じる人もいます。

そんな時は、何度もシミュレーションを繰り返して手順をしっかりと頭に入れておけば、少しずつ不安も解消するでしょう。また経験豊富な人から、積極的にアドバイスをしてもらうことも大切です。

そして失敗をしても気にせず、まずは心のこもった温かみのあるエンゼルケアを目指したいところです。

病院でのエンゼルケアの手順と流れ

病院では、逝去後30分以内でエンゼルケアを完了させなければいけないという暗黙のルールがあります。タイトな時間内にすべてを終わらせるためには、決められた手順通りにスムーズに行わなければいけません。

病院でのエンゼルケアは、死後処置の流れから看護師が行うことが多いようです。病院によって方法は違いますが遺族を病室から退室させて看護師のみで行う場合と、遺族と共に行う場合とがあります。基本的な手順は以下の通りです。

  • 医療機器の取り外しや創傷の処置 息を引き取ったあと、治療で使用していた点滴やチューブなどの医療機器を取り外します。医療行為が含まれることから医師が行うこともあります。 また身体に残った創傷のケアをし、目立たないように処置を行います。
  • 内容物・排せつ物の排出や口腔・鼻腔のケア 胃や腸など体内に残った内容物や尿や便はすべて取り除きます。また口腔内や鼻腔内も吸引を行い、臭気をおさえるために歯ブラシやアルコールを使用します。
  • 全身の保清や洗髪 清拭(せいしき)と言って、全身を拭いて清潔にします。髪が汚れている場合や遺族の意向により洗髪を行うこともあります。
  • 衣服の着替え 衣服は病院で用意しているものに着替えさせますが、遺族が準備していた衣服への着替えも可能です。
  • エンゼルメイク 保湿のために化粧水や乳液を含ませてからマッサージクリームなどを使用してマッサージを行い、肌を乾燥から守ります。その後その人に合ったメイクを施します。 ひげが伸びている場合にはひげ剃りを行います。
  • 身体の冷却 遺体の腐敗の進行を遅らせるために身体を冷却します。着替える際に冷却剤を臓器のある胸部や腹部を中心に当てるようにします。

在宅でのエンゼルケアの手順と流れ

自宅で逝去した場合のエンゼルケアは、基本的には訪問看護師や訪問介護士によって行われることが多いようです。

病院とは違って時間的な制限はありませんので、遺族の希望によって時間的な配慮はされることになります。死後1~3時間の間にエンゼルケアを開始し、時間をかけて丁寧に行うことも可能です。ただし施設のように設備が整っているわけではありません。室内温度の調整や、必要な物品が整っているわけではないのでできれば前もって準備しておくようにします。

その他、基本的なエンゼルケアの手順や流れは病院で行うのと違いはありません。

  • 医療機器の取り外しや創傷の処置
  • 内容物・排せつ物の排出や口腔・鼻腔のケア
  • 全身の保清や洗髪
  • 衣服の着替え
  • エンゼルメイク
  • 身体の冷却

エンゼルケアを行う上で大切なこと

エンゼルケアを行う理由はさまざまにありますが、特に以下の2点については常に意識しておかなければならない大切なことです。

死後ケアは早くした方がいいのか、故人の尊厳を守るためにはゆっくり時間をかけて行いたいがそれは不可能なのか。考え方は人によってそれぞれ違いますが、曖昧ではいけないどうしても譲れないこともあります。

誰もが安全にかつ安心して行われるエンゼルケアとはどういうものなのでしょうか。

1)感染リスクに対する正しい理解

エンゼルケアを行う大きな理由の一つは感染予防です。

逝去後の遺体は時間と共に変化していきます。体内では体液の移動がはじまり体外へ流れ出てきます。流れ出た体液は外気に触れて気化します。また腐敗の進行も止めることはできません。

ガーゼなどにより詰め物をして体液の流れ出ることを防いだり、腐敗の進行を遅らせるために冷却したりすることは感染予防に大いに役立ちます。

遺体が病院から戻ってきた場合、周囲の人に感染させないためにも特別な配慮が必要になります。

そういった感染リスクの危険性を防ぐためにもエンゼルケアが重要であることを、関係者に説明することはとても重要なことです。

2)ご家族の意思を尊重すること

エンゼルケアは感染症リスクや死後の変化を遅らせるためには必要な行為ですが、遺族にとっては不快に感じることがあります。

ベテランの看護師などは感情もなく淡々と作業をしているように見える場合があります。また時間を急ぐあまりに遺族の気持ちへの配慮が欠けてしまう場合もあります

看護師からすれば、故人や遺族のために一生懸命行っていることなのですが、それがうまく伝わらなくてトラブルに発展してしまう場合があるのです。

エンゼルケアを行う前には必ず遺族との話し合いを設ける必要があります。双方が納得してしっかりと理解しあえていることを確認しましょう。またエンゼルケアを行っている間にも細かく確認をするようにします。

故人に対する悲しみや喪失感にとらわれている遺族。エンゼルケアが成功するかによって今後遺族の人生にも大きく違ってきます。死と向き合ったときの強烈な印象は深く遺族の心の中に刻まれてしまうため細心の注意が必要です。

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6.まとめ

少子化や核家族化している昨今、身近に死を感じることができなくなっている人が増えています。そのため、死に対して必要以上に過敏になってしまうのです。

大切な家族が亡くなったとき何をすればいいのかわからない。また今まで感じたことのないような悲しみや喪失感に、どう対応すればいいのかわからないなど次々と問題が発生します。

エンゼルケアは実際に死に触れることで、故人との別れを実感することができます。気持ちの整理をつける重要な役割を果たすため、できるだけ遺族に寄り添ったものでなければなりません。

病院など時間的に制限がある場合でも、遺族としっかりと意思を疎通しておくことであらゆるトラブルは回避することができます。

死生観は人それぞれ違いますが、故人の最期のお別れにはできるだけ生前の姿のまま送りだしたいものです。

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セカンドラボ株式会社

URL:https://www.2ndlabo.co.jp

東京大学を卒業後、大学病院の病棟看護師として勤務。アレルギー・リウマチ内科、腎臓内分泌内科、心療内科等幅広い領域を担う病棟で従事。
2023年よりセカンドラボ株式会社に入社。医療介護向け求人メディア「コメディカルドットコム」の営業・採用課題のサポートを行う。また、看護師の経験を生かし、看護師に関連するコンテンツ作成にも従事。

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