グリーフケアとは?定義から実践方法、声かけの注意点、資格と看護現場での役割を解説
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深い悲しみに直面しグリーフケアを受けたい方。
グリーフケアを学び、悲しみを抱える誰かを支えたい方。
この記事は、両方にとっての道しるべとなることを目指します。
前半では、グリーフケアの定義と理論、そして実践方法を順番に解説し、実際の声かけでの注意点を紹介します。
後半では、グリーフケアを受けるにはどこに相談すればいいか、学ぶにはどんな資格があるのか、そして看護師の働く現場でのグリーフケアについて解説します。
記事を読むことで、「悲しみと共に生きる力」または「誰かを支えるための一歩」を見つけるきっかけとなれば幸いです。
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目次
グリーフケアとは?その定義と目的
グリーフケアとは、大切な人との死別や、大きな喪失を経験した人に寄り添い、立ち直りを支援するサポートのことです。
グリーフ(grief)は「悲嘆」と訳され、死別や喪失によって生じる、心と体の様々な反応を指します。人によって感じ方は異なりますが、以下のようなものが挙げられます。
- 愛する人を亡くし空っぽになってしまった。何もする気が起きない。
- 「もっと何かできたはずなのに…」と後悔と自責の念がいつまでも続く。
- これから一人きりでどう生きていけばいいのか。孤独と不安で眠れない。
- あんなに好きだった食べ物が美味しく感じない。
グリーフケアの目的は、悲しみを無理に忘れさせるのではなく、悲しんでいる人が自分らしいペースで、悲しみと共に生きていける道を見つける手助けを行うことです。専門家によるカウンセリングや、同じような経験をした人たちが集まる自助グループなどが、その一助となります。
グリーフケアは誰のため?
グリーフケアの対象は、大切な人やペットとの死別、大きな喪失を経験したすべての人です。以下のような様々な状況や関係性が含まれます。
- 家族:配偶者、親、子、兄弟姉妹など、家族を亡くした人
- パートナー:法的な婚姻関係にない事実婚や同性パートナーを亡くした人。
- 友人:親しい友人を亡くした人。
- ペットの飼い主:長年連れ添った大切なペットを亡くした人
- 大きな喪失を経験した人:病気や災害などで、家や財産、社会的地位などを失ってしまった人
家族や親しい友人だけでなく、患者を看取った医療従事者なども含まれます。悲しみの感じ方は人それぞれであり、年齢や故人との関係性によっても異なるため、一人ひとりの状況に合わせたケアが求められます。
グリーフケアが広がった歴史と背景
日本では古来、お葬式や法事といった儀式、また地域のコミュニティが自然とグリーフケアの役割を担ってきました。しかし、核家族化や人間関係の希薄化、病院での看取りの一般化など、社会構造の変化に伴い、個人が悲しみを一人で抱え込むケースが増加しました。
このような背景から、専門的な支援の必要性が認識されるようになり、2009年には日本初のグリーフケア専門研究機関「日本グリーフケア研究所」が設立されました。特に2011年の東日本大震災では、厚生労働省が家族を失った子どもたちへグリーフケアを提供したことで、その重要性が広く知られるようになりました。
※「日本グリーフケア研究所」は2010年に上智大学に移管され、「上智大学グリーフケア研究所」に改名し現在に至ります。
グリーフケアとエンゼルケアの関係性
エンゼルケアは、故人の死後の処置を指し、故人の尊厳を守るとともに、遺体を衛生的に保つことを目的としています。同時に「遺族の心を癒す」という重要な役割も担っており、エンゼルケアはグリーフケアの一部と言えます。
エンゼルケアがグリーフケアの初期段階で果たす役割は以下の通りです。
- 最後の美しい思い出を作る:故人の身体を整え、穏やかな表情にすることで、遺族は苦しんだ姿ではなく、生前の「その人らしさ」を思い出すことができます。
- 故人との最後の別れの機会:エンゼルケアの過程に遺族が立ち会ったり、直接手伝ったりすることは、故人の身体に触れる最後の機会となります。この行為は、故人への感謝や愛情を再確認する大切な時間となり、後悔の念を和らげる効果があるとされています。
- 故人の死を受け入れる:遺族が物理的に故人の死を認識し、現実を受け入れるためのきっかけとなります。
このように、エンゼルケアは、遺族の悲しみに寄り添い、気持ちの整理を促すための「グリーフケアの始まり」として、深く関連しています。
エンゼルケアについては別記事で詳しく解説しています。
エンゼルケアの目的と意義とは?
エンゼルケアについて目的と意義、具体的な手順と流れを解説しています。
詳細を見るグリーフワーク(悲観のプロセス)とは?
グリーフワークとは、大切な人との死別や、大きな喪失を経験した人が、その悲しみや喪失感と向き合い、時間をかけて心の整理をしていく「内なる心の作業」のことです。この作業は、誰に教えられるものでもなく、ごく自然に起こる心の働きです。
グリーフケアは、このグリーフワークが円滑に進むように、外部から提供される「サポート」や「手助け」です。そのため、グリーフケアを行うにはグリーフワークの理解が不可欠です。
グリーフワークにはいくつかの代表的な理論があります。ここでは2つ紹介します。
段階モデル:キューブラー=ロスの「死の受容5段階モデル」
このモデルは、もともと末期患者が自身の死を受け入れる過程を研究して提唱されたものですが、死別の悲嘆にも応用されるようになりました。これは、悲嘆が以下の5つの段階をたどるという考え方です。
「そんなはずはない」「信じられない」と、現実を一時的に受け入れられず、感覚が麻痺した状態。心の防衛機能として自然に起こります。
現実を少しずつ認識し始めると、なぜこんなことが自分に起こったのか、なぜ大切な人が死ななければならなかったのかという怒りが湧いてきます。この怒りは、時には故人や自分自身、医師、神、周囲の人々など、様々な対象に向けられることがあります。
「もしあの時こうしていれば」「〇〇をするから、どうかもう一度」と、喪失の現実を変えようと、何かにすがり、取引を試みる段階です。
取引がうまくいかないことを悟り、喪失の大きさを実感し、深い悲しみや無気力感に襲われる段階です。希望が見えず、すべてがどうでもよく感じられることもあります。
悲しみや苦しみがあるまま、現実を受け入れられるようになる段階です。故人との関係性を心の中に再構築し、故人のいない世界で新しい人生を歩み始める準備ができます。
【注意点】
このモデルは、必ずしもこの順番で直線的に進むわけではありません。怒りと悲しみの間を行ったり来たりしたり、一度受容したと思っても、ふとした瞬間に悲しみがぶり返したりすることも珍しくありません。
課題モデル:ウォーデンの「悲嘆の4つの課題」
このモデルは、悲嘆を「乗り越えるべき課題」として捉えることで、より能動的な回復プロセスを強調しています。
頭では理解していても、感情的に受け入れられない喪失の事実を、少しずつ認めていく作業です。
悲しみ、怒り、罪悪感など、悲嘆に伴う様々な感情を抑え込むのではなく、感じて、表現し、向き合うことです。
故人が担っていた役割や、故人との関係性がなくなった世界で、新しい生活や役割、人間関係を再構築していくことです。
故人を忘れるのではなく、心の中に大切な存在として位置づけ直し、その上で、自分の新しい人生に意識を向けていくことです。
グリーフワークで重要なのは、国籍、文化、そして故人との関係性といった様々な要因によって、その人独自のプロセスをたどることです。画一的なものではありません。グリーフワークの理論は、あくまで悲嘆の一般的なパターンを理解するための道しるべと言えます。
日本人に多い悲観の反応とは?
先に紹介した理論は、欧米で生まれたものです。日本人とは宗教観や個人主義的な文化の違いがあります。日本人独自の特徴について深堀りしたいと思います。
一般社団法人「日本グリーフケア協会」によると、死別に対する日本人の主な反応として以下が挙げられています。
(1)亡くなった人を思い起こし・愛しい・恋しい思いに占有される「思慕と空虚」
(2)人と違ってしまったような気後れ感覚に代表される「疎外感」
(3)何もやる気がしないうつにそっくりな「うつ的不調」
(4)自分を奮い立たせようとする「適応・対処の努力」
その他、感情を公に表すことをためらったり、周囲に心配をかけまいと感情を内に秘めたりする傾向があるとの指摘もあります。
グリーフケアはどこで誰によって行われる?
グリーフケアは、様々な場所で、様々な立場の人によって提供されます。
身近な人によるグリーフケア
家族、友人、同僚など、身近な人々による支えは、グリーフケアの基本です。特別な資格やスキルは必要なく、ただそばにいて話を聞くだけでも、大きな力になります。
専門家によるグリーフケア(医療・心理の現場)
医師、看護師、臨床心理士、ソーシャルワーカーなどの専門家が、それぞれの専門知識を活かしてグリーフケアを提供します。がん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」や、専門の「グリーフケア外来」などで相談することができます。
儀式・コミュニティによるグリーフケア
葬儀や法要といった儀式は、故人を偲び、悲しみを分かち合う重要な機会であり、グリーフケアの一環と言えます。また、同じような経験をした人々が集う自助グループ(わかちあいの会)も、気持ちを共有し、孤立感を和らげる場として有効です。
テクノロジーの活用(グリーフテック)
近年では、IT技術を活用して悲しみをケアする「グリーフテック」という取り組みも生まれています。故人の音声や映像をAIで再現し、バーチャル上で対話できるサービスや、オンラインのカウンセリング、遺族同士が繋がるコミュニティアプリなど、新しい形のサポートが広がっています。
【具体的に何をする】グリーフケアの方法
グリーフケアには決まった形はありません。人によってグリーフの感じ方や回復のプロセスが異なるためです。その上で、一般的に以下のようなものがあります。
- 傾聴: 相手の話を否定せずに、ありのままに受け止め、共感的に耳を傾けます。
- 感情の表出を促す: 悲しみや怒り、後悔など、抑圧しがちな感情を言葉や涙で表現することを促します。話すことが難しければ、手紙を書いたり、絵を描いたりすることも有効です。
- 故人について語り合う: 故人との思い出を語り合うことで、気持ちの整理を助けます。
- 手元供養: 遺骨の一部をアクセサリーに加工したり、小さな骨壺に入れて自宅に置いたりすることで、故人を身近に感じ、心の支えとします。
- お別れ会やセレモニーの開催: 葬儀とは別に、親しい人々で集まり、故人を偲ぶ会を開くことも、気持ちの区切りをつける助けになります。
支援する側が「こうあるべきだ」というゴールを設定するのではなく、悲嘆を抱えるその人自身のペースと方法を尊重することが最も大切になります。
家族や友人など、身近な人が行えるサポートとしては、「ただそばに居ること」「相手の話に耳を傾け、否定や価値観の押し付けをしないこと」です。
間違えると逆効果…声かけの注意点
良かれと思ってかけた言葉が、相手を傷つけてしまうこともあります。以下のような声かけには注意が必要です。
- 安易な励まし: 「頑張って」「早く元気になって」といった言葉は、相手にプレッシャーを与えかねません。
- 悲しみを否定する言葉: 「泣かないで」「いつまでも悲しんでいては故人も悲しむ」など、感情を抑えつけるような言葉は避けましょう。
- 分かりきったような言葉: 「時間が解決してくれる」「あなたの気持ちは分かる」といった言葉は、反発を招く可能性があります。
- 憐れむ言葉: 「かわいそうに」という言葉は、相手を見下しているような印象を与えかねません。
- 気分転換のアドバイス: 「旅行をするといいですよ」「マインドフルネスがおすすめ」といった内容は、ありがた迷惑になってしまいます。
大切なのは、「何かしてほしいことがあればいつでも言ってね」と伝え、話す自由と話さない自由の両方を提供することです。
【受けたい人】グリーフケアを受けるには?
グリーフケアを受けたい場合、以下のような相談先があります。
- 医療機関:精神科・心療内科、グリーフケア外来など
- 民間の支援団体: 自死遺族のわかちあいの会、グリーフサポート団体など
- オンラインサービス: オンラインカウンセリング、グリーフケアアプリなど
一人で抱え込まず、まずは身近な窓口に相談してみることが大切です。ご自身の住んでいる地域でどのようなサポートがあるか、インターネットで「(地域名) グリーフケア 相談」などで検索してみることをお勧めします。
地域によっては、どこでグリーフケアを受けられるか、団体紹介や予約方法をまとめたサイトが存在します。
【学びたい人】グリーフケアに関わる資格4選
グリーフケアに関する専門知識を学び、仕事に活かしたい方向けの民間資格を4つ紹介します。グリーフケアには国家資格や統一された公的資格がないため、そのほとんどが民間団体(一般社団法人、NPOなど)の認定資格です。
グリーフケア・アドバイザー
日本グリーフケア協会が認定する資格です。2級(初級)・1級(中級)・特級(上級)の3段階に分かれています。
日本人の死別悲嘆の反応と悲しみを癒すアプローチ法について学び・身につけることに主眼を置いています。
グリーフケア士
一般財団法人冠婚葬祭文化振興財団が認定する資格です。「グリーフケア士」と2025年8月より開始された「上級グリーフケア士」の2つがあります。
上智大学グリーフケア研究所が監修したテキストが使われており、学術的な裏付けが重視されています。
参考:一般財団法人冠婚葬祭文化振興財団「グリーフケア資格認定制度」
グリーフケア・リテラシー検定試験
日本ホスピタリティ検定協会が認定を行っています。グリーフケアの基礎的な考え方を理解し、適切な接遇応対を学ぶことを目的としています。
専門家資格というよりは、「教養・スキルの検定」という色が強いです。葬儀社、金融機関、保険会社、行政機関(役所)、医療・福祉関係など、業務でご遺族と接するすべての方が対象となります。
参考:日本ホスピタリティ検定協会「グリーフケア・リテラシー検定試験」
終末期ケア専門士
日本終末期ケア協会が認定する資格です。「終末期ケア専門士」「終末期ケア上級専門士」「JTCAアドバンスインストラクター」のステップアップ形式となっています。
終末期におけるグリーフケア、患者さんの死別前(予期悲嘆)から死別後(遺族ケア)までを一貫して支援するための知識を学ぶことができます。
【看護師向け】グリーフケアと看護の現場
看護師は、患者の療養生活から終末期、そして看取り後まで、継続的に患者とその家族に関わることができるため、グリーフケアにおいて非常に重要な役割を担います。特徴や具体的に何を行うのか見ていきましょう。
訪問看護におけるグリーフケア
在宅での看取りが増える中、訪問看護におけるグリーフケアの重要性は高まっています。訪問看護師は、患者さんとご家族の生活の場である「在宅」で、療養開始の段階から、臨終時、そして死別後まで切れ目なく関わることができます。病院などでのケアと比べて、より生活に根差した、個別性の高い支援が可能です。
利用者の死別後の遺族ケアには、訪問看護師による遺族訪問、遺族へのグリーフカードの送付、そして遺族会があります。ご家族の性格、ライフスタイル、故人との関係性などを深く理解した上で、そのご家族にとって最適なケアを提供することができます。
緩和ケアにおけるグリーフケア
緩和ケアの現場では、患者が亡くなる前からご家族の「予期悲嘆」に寄り添い、死別後の悲しみが深刻化しないよう支援することが重要です。死別前からグリーフケアが始まっているとも言えます。患者の病状や死期について丁寧に説明し、家族が死を受け入れ、穏やかな看取りができるようサポートします。
患者が旅立たれた後の遺族ケアプログラムには、手紙・カードの送付、電話相談・面談や情報提供、追悼会、遺族のサポートグループ、講演会などがあります。
グリーフケアの看護師自身への影響
患者の死を看取ることは、看護師にとっても大きなストレスとなります。「もっとしてあげられることがあったのでは…」と看取りを通じて自身の悲しみや無力感を抱えてしまうケースも珍しくありません。
その中で、看護師がご家族にグリーフケアを提供することが、結果として看護師自身のグリーフケア(セルフケア)になることがあります。ご家族に寄り添い、悲嘆の感情を共有することで、自分の心の中の感情も整理されやすくなります。
また、ご家族の後悔の少ない看取りを支援できた場合、その達成感が看護師自身の喪失感を和らげます。患者さんの死という辛い経験を、単なる喪失としてではなく、「ご家族を支え、回復を助けた」という肯定的な経験として意味づけ直すことができます。
「死別の経験を通して人は学び、成長する」と言われます。看護師のグリーフケア提供は、セルフケアでもあり自身の成長にも繋がるのです。
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グリーフケアは、大切な存在を失った深い悲しみに寄り添い、その人らしいペースで日常を取り戻すための重要な支えです。特別な資格がなくても、身近な人が話を聴くだけで心の負担は軽くなります。一方で、悲しみが心身の不調につながる場合は、専門家や支援団体を頼ることも大切です。
本記事では、グリーフケアを「受けたい人」「提供したい・学びたい人」それぞれの視点から、定義、具体的な方法、相談窓口、関連資格などを網羅的に解説しました。特に、患者やその家族と深く関わる看護師にとって、グリーフケアは実践的なスキルと言えるでしょう。この記事が、悲しみを抱える方や、誰かの力になりたいと願う方にとって、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
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